コラム一覧

業務委託契約とその有効性

業務委託契約とは

業務委託契約とはいわゆる外注のことです。

法律的には委任契約や請負契約が当てはまります。

一般的には完成した商品を納めることを目的とした請負契約を指すことが多いです。

通常、商品の作り方や作る時間、作る場所までは注文を付けられません。

完成した商品を納めたこともって報酬が支払われます。

これが作り方や時間の指定などの命令があると「使用従属関係」が認められ、労働者となります。

その場合は社会保険の加入や残業代を含めた賃金の支払いなどの必要が出てきます。

 

業務委託契約の有効性

業務委託契約として契約すれば業務委託契約が認められるわけではありません。

場合によっては労働者として認定され、未払い賃金の支払いや当該労働者を強制的に雇用をしなければならなくなります。

では、どのような場合に業務委託契約が認められるのでしょうか。

雇用契約と業務委託契約は一言でいえば使用従属性の有無です。

明確に分かれているわけではないものの、裁判で一応の方向は示されています。

業務委託契約の判断基準となる要件を列挙します。

・指揮命令権がない

業務委託契約は仕事の完成に対して報酬が支払われます。仕事の遂行方法を命令する場合は雇用契約とみなされる可能性があります。

・報酬の支払い基準が仕事の完成(遂行)に対してである

基準が時間に対してである場合は労働者とみなされる可能性があります。

・労働時間の自由がある

労働時間を管理する場合は労働者性を有しているとみなされる可能性があります。ただし、仕事の納期を決めることはかまいません。

・労働場所の自由がある

仕事の場所を特定する場合は労働者とみなされる可能性があります。

・仕事内容の諾否が自由である

仕事内容に応じて受諾する自由がない場合は労働者とみなされる可能性があります。

・社内の就業規則や服務規律に拘束されない

自社の労働者でないので就業規則などに拘束されません。

・仕事で必要となる物品が会社負担でない

自社で仕事に必要な材料や道具を負担している場合、労働者とみなされる可能性があります。

上記の事柄を総合的に判断します。

1つでも、もしくはすべてが当てはまった場合のみ該当するものではありません。

 

業務委託契約の裁判例

ここで(エアースタジオ事件 東京高裁令2.9.3判決)を紹介します。

この事案はいわゆる下積みだった元劇団員が劇団の裏方業務や講演への出演(そのための稽古も含む)について労働者であることを前提に賃金の支払いを請求したものです。1審は裏方業務のみ労働者性を認めましたが、2審はこれに加えて公演への出演についても労働者性を認めました。

・判断の基準

業務の諾否の自由の有無、時間的・場所的な拘束の有無、労務提供の対価が支払われていたかどうかなどを総合的に判断するとしています。

・公演の出演

1審と2審で判断が分かれた公演の出演の労働者性ですが、1審では公演の出演を拒むことができた(諾否の自由があった)としたため労働者性を否決しましたが、2審では劇団に所属しながら公演を拒否することは下積みであった元劇団員には考えられないとして労働者性を認めました。

 

やはり業務委託契約の内容と実際の働き方を総合的に判断して判決が出されます。

自社と労働者、委託業務者との契約内容をしっかり確認して必要であれば契約を変更し、会社を守りましょう。

 

2024年04月24日

従業員の定着のためには?

従業員を雇ってもすぐに退職してしまう、そんな企業の悩みが最近よく耳に入ります。

なぜすぐに退職してしまうのか、また、企業に定着を図るためになにをするべきかをみていきましょう。

 

企業を取り巻く労働者の現状

出典:東京商工会議所「最低賃金および中小企業の賃金・雇用に関する調査」

この表は中小企業に人手不足の状況を聞き取りをした回答です。

人手不足と回答した企業は65%にも及んでおり、実に3社に2社は労働者不足といった状況です。

特に建設業(78.9%)、運輸業(77。3%)、介護・看護業(76.9%)などは80%に迫る深刻な人手不足です。です。

しかも、この数字は昨年度より増加しており、日本の少子化の現状を鑑みると下がる見込みはありません。

企業は採用に関して戦略的な対応をする必要があるということです。

つまり、採用の見込みが少ない現状として、現在の労働力を逃がさず定着させなくてはならないのです。

 

労働者の転職の現状

出典:リクルート「2023年1ー3月期 転職時の賃金変動」

この表は前職と比べて1割以上賃金が上昇した転職者の割合を表したグラフです。

実に35%もの転職者が前職より1割以上も賃金が上昇しているということです。

グラフの折れ線はリーマンショックやコロナ禍の時期は少なくなっていますが、おおむね右肩上がりです。

若い転職者に限って言えばもっと多くの割合で賃金が上昇しているでしょう。

これを見てわかる通り、転職を積極的に行う方が労働者のメリットとなっています。

実際、若者の中では転職にマイナスイメージがなく、現状に満足していなければすぐに転職活動を行う動きがあります。

一昔前のように「1つの企業で最低3年は在籍する」という考え方はなくなっているのです。

 

企業に定着を図るため企業がすべきこと

企業が労働者の定着のためにすべきことはまず、多様な働き方を推進することです。

テレワークを導入することやフレックスタイム制の導入、選択的週休3日制を推進することで労働者の仕事と家庭の両立に対応できます。

子育てが、介護がと家庭の事情でしかたなく退職する労働者を手放すのはもったいないので、そういう労働者のニーズを拾えるような企業の制度充実を図りましょう。

次に賃上げです。

東証プライム企業では、2023年新卒入社の大卒初任給は225,686円でした。

当然その上の年代も給料を調整するので、賃金上昇させることも退職させないために必要な手段だといえます。

最後に労働者が成長を実感できる職場づくりです。

仕事が退屈、自信の成長が実感できない職場ですと労働者は転職を視野に入れます。

各労働者に目標を設け、成長を実感させ、上司が評価する制度がある企業は労働者が働き甲斐を感じ定着しています。

企業に余力があるうちに、少しずつでも労働者定着のための方策を実施し、労働力不足に備えましょう。

2024年03月01日

社会保険料の間違い~年金事務所の調査で指摘されないために~

社会保険料の対象となる報酬

社会保険料に算定する報酬(給与)は健康保険法3条5項には

「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。

とあります。

法律ではすべてのものが該当しそうですが、実際には算定対象でないものもあります。

厚生労働省では下記の表にして明示しています。

出典:算定基礎届の記入・提出ガイドブック

 

現物支給の多い会社は注意が必要です。

給料明細や賃金台帳に乗ってこない報酬も社会保険料の算定には算入する必要があります。

 

社会保険料の算定のタイミング

社会保険料の算定する必要があるのは以下のタイミングです。

・採用したとき(資格取得時決定)

これから支払うであろう報酬を元に届出をします。

・7月(定時決定)

7月1日現在に在籍しているすべての被保険者の4月~6月の報酬をもとに算定します。

・給料が変動したとき(随時改訂)

昇給などで給料が変動したとき変動した月から3か月分の報酬を元に4か月目に行います。

 

年金事務所の調査で良く見つかるミス

調査で良く見つかるミスを例示します。

 

・入社時に支払っていなかった手当を算入していない

4月入社の社員に住宅手当を支払い忘れ、5月に清算した場合などです。

この場合、社会保険料の計算に入れる必要のある給料となります。

もし資格取得時決定に算入していなかった場合は資格取得届の訂正の届出が必要となります。

 

・非固定的賃金が新設・廃止された場合

毎月変動する手当が新設・廃止された場合です。

成績によって額がかわるので月額変更の契機にはならないと思われがちですが、新設・廃止の場合は固定的賃金の変動に該当し、月額変更の必要がある場合があります。

 

・非固定賃金の単価が変動したとき

ガソリン単価が1キロ10円から20円になった場合などです。

支払われる根拠となる単価が変動した場合は固定的賃金の変動に該当し、月額変更の必要がある場合があります。

2024年02月19日

35歳に関すること

私本日、誕生日です。

35歳になりました。

そんなわけで今回は35歳に関する労働関係の法律を確認したいと思います。

安全衛生法の35歳

安全衛生法の35歳といえば、定期健康診断の腹囲測定を省略できない年齢です。

通常40歳未満の者は省略できますが、35歳は強制となっています。

また、胸部エックス線検査も省略できません。

こちらは20歳、25歳、30歳、35歳の5の倍数の年齢は省略できないことになっています。

他にも血液検査が強制となっています。

35歳の健康診断は強制の項目が多いです。

 

雇用保険法の35歳

雇用保険法の35歳は基本手当の所定給付日数の区分が変わります。

会社の倒産や解雇など、失業を余儀なくされた者(特定受給資格者)の基本手当(失業手当)が34歳までより多くなります。

2024年02月08日

仕事と家庭の両立

仕事と家庭の両立について会社がやるべきことと守るべき法律について、以下のようにまとめてみました。

まず、会社がやるべきこととしては、育児や介護を抱える社員に対して、柔軟な勤務形態や休業制度を提供することです。

具体的には、以下のような制度を導入・運用することが求められます。

育児休業制度:子どもが1歳になるまでの期間に認められる休業制度

子の看護休暇:小学校就学前の子どもがいれば、1人につき年5日まで看護休暇を取得できる制度

育児短時間勤務制度:3歳未満の子どもを持つ場合に、1日の所定労働時間を原則6時間に短縮できる制度

介護休暇:要介護状態にある家族を介護するために1人につき年5日まで休暇を取得できる制度

介護休業制度:要介護状態にある家族を介護するために1人につき3回まで、通算93日まで休業できる制度

介護短時間勤務制度:要介護状態にある家族を介護するために勤務時間を短縮できる制度

フレックスタイム制度:所定の総労働時間内で勤務する時間帯を自由に決められる制度

次に、会社が守るべき法律としては、育児・介護休業法と次世代育成支援対策推進法があります。

これらの法律では、事業主に対して、上記の制度の導入・運用や、社員の両立支援に関する情報の周知・教育、社内の両立支援の環境整備などを義務づけています。

また、両立支援に積極的に取り組む事業主に対しては、助成金や表彰などの支援も行われています。

仕事と家庭の両立支援は、社員の働きやすさや定着率を高めるだけでなく、企業の人材確保やイメージ向上にも貢献する重要な取り組みです。

人事担当者は、制度の内容や改正を把握し、社員のニーズに応えることができるように努める必要があります。

2024年02月05日
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