所長のコラムです。

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中退共?確定給付?確定拠出?導入すべき退職金制度の比較

退職金制度はいくつかありますが、その中の主要な3つを紹介、比較します。

 

中退共とは

中小企業退職金共済といい、国の退職金制度です。

昭和34年からある、歴史ある制度で、令和5年には379,372事業所が加入しています。

制度の仕組みとしては、毎月企業が掛金を拠出し、従業員が退職した場合に、中退共から従業員に退職金が支払われます。

名前の通り中小企業が加入対象となります。

従業員の全員加入が原則ですが、事業主は加入できません。

掛金は5,000円(短時間労働者は2,000円)から30,000円となっています。

退職金額は基本退職金+付加退職金となります。

基本退職金とは掛金月額と掛金納付月数に応じて法令で定められている金額で、制度全体で予定利回り1%として定められています。

※資料「よくわかる中退共制度」

 

付加退職金とは、中退共の運用収入や財務状況によって付加されるものです。

中退共HP

確定給付年金とは

確定給付年金は、退職後の年金支給額が事前に決まっている年金制度のことです。

企業が提供する年金制度で、従業員が退職した後に支給される年金額が、予め定められた基準に基づいて計算されます。

確定給付年金の特徴としては、将来受け取る年金額があらかじめ決められているので、将来の年金額の予測がつき安心といえるでしょう。

掛金と掛金納付月数に応じて一定の額を年金として受け取ることができます。

確定給付年金は、基本的には企業が積み立て、企業が運用します

企業が年金資金を運用し、将来支給する年金額が確保できるように責任を負います。

年金資金がマイナスになった場合は、企業が補填するリスクがあります。

加入者は70歳未満の厚生年金被保険者です。

従業員、事業主共に加入できます。

掛金は1,000円単位で最大で給料の20%(上限40万円)まで設定できます。

確定給付年金は各企業によって詳細は異なります。

また、導入した制度によっては社会保険料の適正化にもつながります。

 

確定拠出年金とは

確定拠出年金とは、毎月の企業の年金資金の拠出額が決められています。

年金の額がいくらになるかは運用実績次第です。

運用は加入者自身が行うため、選んだ金融商品によっては元本割れのリスクがあります。

年金額の元本保証ではないため、会社が補填する必要はありません。

加入者は70歳未満の厚生年金被保険者です。

従業員、事業主共に加入できます。

掛金は1,000円単位で最大で5,5000円まで設定できます。

確定給付年金は各企業によって詳細は異なります。

また、導入した制度によっては社会保険料の適正化にもつながります。

 

各制度の比較

各制度を比較した表です。

 

結局どの制度がベストなの?

当然それぞれメリットデメリットがありますが、私は確定拠出年金制度をオススメします。

確定拠出年金の最大の特徴は、運用を加入者自身が行う点です。

株や債券を積み立て運用することによって、物価が上昇し、お金の価値が下がる現代において、積み立てた退職金が目減りするリスクを避けやすくなります。

例えば、5年前は卵1パックが100円だったのが、現在は250円近くになるように、物価は確実に上がっています。

確定拠出年金では、こうした物価上昇に対応できる可能性が高く、資産を増やす手段を自分で選べるのです。

一方で、中退共や確定給付年金(DB)は、退職金額があらかじめ決まっており、物価が上昇するとその実質的な価値が減少するリスクがあります。

また、確定給付年金は、年金額が固定されているため、企業がハイリスク・ハイリターンの運用ができません。

そのため、高いリターンを得る可能性が低く、拠出した金額がそのまま退職金となることが一般的です。

確定拠出年金ならば、運用を自分のペースで行い、物価上昇やインフレにも柔軟に対応できるため、将来の資産をより効果的に増やすことができます。

また税金や社会保険料の適正化の手段があるのも確定拠出年金をオススメする理由の一つです。

 

退職金制度を導入し、労働者に安心して働ける企業づくりを目指しましょう。

 

2024年11月22日

社会保険の加入と扶養要件

社会保険に加入する企業は?

まず社会保険に加入しなければならない企業について確認します。

社会保険適用事業所といいます。

強制適用されるのは

①法人

②常時5人以上雇用する個人の事業所(農林漁業、サービス業を除く)

となります。

①は株式会社や合同会社などを問いません。また、労働者を雇用していない事業主のみの法人も適用事業所となります。

②は令和4年10月から法律事務所や会計事務所も対象となりました。

強制適用とならないのは5人未満の個人事務所、5人以上の農林漁業・サービス業のみです。

 

社会保険に加入する人は?

社会保険に加入しなければならない人は

社会保険の適用事業所に常時雇用される労働者となります。

ただし、

1週間の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3未満である場合は社会保険に加入することはできません。

 

ここでややこしいのは社会保険に加入することと、社会保険の扶養に該当することは別の要件であるということです。

 

扶養の要件

社会保険での扶養となる要件は

①本人の年間収入が130万円(60歳以上または障害者の場合は180万円)未満であること・・・130万円の壁

②扶養者の収入の半分未満であること(半分以上でも認められる場合があります)

③同一世帯であること

とざっくりいうとこのようになります。

また、社会保険の適用拡大が行われており、被保険者数51人以上の会社は月額88,000円週労働時間数が20時間以上の労働者は①~③にあてはまらなくても社会保険の被保険者となります。これが106万円の壁となります。

 

さて、社会保険の加入と扶養に該当することは別要件と書きましたが、これが社会保険の加入要件に当てはまる場合は加入、当てはまらない場合は加入できません。

扶養要件も同じで、扶養となれる要件に該当していれば扶養になることができ、要件に該当していなければ扶養とはなれません。

この場合、国民健康保険と国民年金の加入となり、自分自身で保険料等を支払うこととなります。

扶養の要件の上限130万円の超えて社会保険に加入した場合、税金等も考慮して手取り給与額を同じままにしようとするとだいたい170万円ぐらい必要となります。

 

まとめ

社会保険は要件に該当すれば強制適用、強制加入です。

扶養となりたい場合は年収の壁(130万円、106万円)に注意しましょう。

扶養を外れる場合は社会保険に自身で加入となるのか、国民年金・国民健康保険に加入となるのかをよく確認しましょう。

ルールをよく確認して間違いのない保険に加入しましょう。

2024年11月08日

「ビジネスと人権」と人権DD

BHR推進社労士(ビジネスと人権推進社労士)となりましたので記載します。

 

「ビジネスと人権」の世界の流れ

「ビジネスと人権」は、企業活動のグローバル化が進む中、企業活動における人権の尊重が注目されてくるようになりました。

国際社会では、1999年、当時の国連事務総長であったコフィー・アナンが「国連グローバル・コンパクト」を提唱しました。

グローバル・コンパクトは、企業に対し、「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防止」に関する10原則を実践するよう要請しています。

国際社会の様々な動向を受け、2011年には、国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が作られ、企業が人権を尊重する責任があることを明記されています。

2022年には日本政府も「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のガイドライン」を策定し、企業の人権尊重に対する高い期待を示しています。

また、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成と人権の保護・促進は表裏一体の関係にあるとされており、企業がSDGsに取り組む上でも、人権の尊重は重要になってきます。

一部の欧米諸国では、各企業に対し、人権配慮を求める法律を導入する動きもあります。

例)イギリス(2015年)現代奴隷法・・・イギリスで事業活動を行う企業のうち、年間の売上高が3600万ポンド以上の企業は、毎年「奴隷と人身取引声明」を開示する義務。

フランス(2017年)ビジランス法・・・フランスに5000人以上の従業員、または合計で10000人以上の子会社社員を雇用する企業に人権デューデリジェンスを計画し、実行する義務。

今後この流れは加速していくものと予想されます。

また、投資家、市民社会、消費者において企業に人権尊重を求める意識が高まってきており、企業は、人権を尊重した行動をとることが求められています。

 

「ビジネスと人権」の実施

「ビジネスと人権」の実施は以下の流れとなります。

①人権方針の策定・公表

企業は人権尊重責任を果たすというコミットメント(約束)を以下の5つの要件を満たす人権方針を通じて企業の内外に向けて表明します。

・企業のトップを含む経営陣で承認されていること

・企業内外の専門的な情報、知見を参照したうえで作成されていること

・従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者に対する人権尊重への企業の期待が明記されていること

・一般に公開されており、全ての従業員、取引先及び他の関係者43にむけて社内外にわたり周知されていること

・企業全体に人権方針を定着させるために必要な事業方針及び手続44に、人権方針が反映されていること

②人権デューデリジェンス(人権DD)の実施

企業は、人権への影響を特定し、予防し、軽減し、そしてどのように対処するかについて説明するために、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方法に関する情報発信を実施することを求められています。

企業が関与している、又は、関与し得る人権への影響を特定し、分析・評価することです。

この一連の流れのことを「人権デュー・ディリジェンス」と呼んでいます。

特定・評価に当たっては、人事担当、調達担当、労働者代表、関与企業、周辺住民等のステークホルダーへの聞き取りが有効です。

評価後は結果を公表することが重要です。

現状を公表し、人権への配慮をしてる姿勢を世界に知ってもらうことが大事なのです。

問題をなくしてから公表となると膨大な時間がかかります。

世界から見ると、その間人権への対応をしていないようにとらえられてしまうため、できたところまでを自社HPなどで公表しましょう。

 

③救済メカニズムの構築

人権への悪影響を引き起こしたり、又は助長を確認した場合、企業は正当な手続を通じた救済を提供する、又はそれに協力することを求められています。

苦情処理システムの構築するなど、問題への迅速な対応、直接救済を可能とする方策を実施します。

 

図 外務省「ビジネスと人権とは?」

 

まずは実施、継続すること

まずは人権方針の策定・公表し、人権DDを実施することが大事です。

この人権DDは継続する必要があります。

人権DDの実施時には将来の人権問題まで把握できないためです。

時間や労力がかかるものですが、真摯に行うと企業価値の増進につながります。

大企業でさえ十分にできていない今のうちから始めて、人権のリーディングカンパニーとなりましょう。

 

2024年11月01日

2025年からの改正育児・介護休業法

2025年4月1日から段階的に施行される育児・介護休業法の改正について紹介します。

今のうちから理解し、会社の制度変更や就業規則等の変更などの対策をしましょう。

子の看護休暇の見直し(改正)

まずは子供の看護休暇が変わります。

改正前→改正後

名称

子の看護休暇→子の看護等休暇

対象となる子の範囲

小学校就学の始期に達するまで→小学校3年生修了までに延長

取得事由

病気・けが、予防接種、健康診断→感染症に伴う学級閉鎖等、入園(入学)式・卒園式を追加

労使協定の締結により除外できる労働者

(1) 引き続き雇用された期間が6か月未満または(2) 週の所定労働日数が2日→(1) を撤廃し、(2) のみ

 

所定外労働の制限(改正)

労働者が請求した場合、残業を免除しなければなりません。

改正前は3歳未満を養育する労働者でしたが、改正後は小学校就学前の子を養育する労働者となります。

 

育児のためのテレワークの努力義務化(新設)

育児のため3歳に満たない子を養育する労働者がテレワークを選択できるように措置を講ずることが、事業主に努力義務化されます。

3歳に満たない子を養育する労働者に関し短時間勤務制度を講ずることが困難な場合の代替措置に、テレワークが追加がされます。

 

育児休業取得状況の公表義務の対象企業が拡大(改正)

改正前は従業員数1000人超の企業が公表義務の対象でしたが、改正後は対象300人超の企業にまで拡大します。

育児休業等の取得状況を公表することが義務付けられます。

 

 

以下は2025年10月から施行です。

 

柔軟な働き方を実現するための措置等が事業主の義務に(新設)

3歳以上、小学校就学前の子を養育する労働者に関する柔軟な働き方を実現するための措置

事業主が選択した措置について、労働者に対する個別の周知・意向確認の措置

始業時刻等の変更

・テレワーク等(10日/月)時間単位取得可能

・保育施設の設置運営等

・新たな休暇の付与(10日/年)時間単位での取得可能

・短時間勤務制度

の中から2以上の制度を選択して措置する必要があります。

労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができます。

事業主が措置を選択する際、過半数組合等からの意見聴取の機会を設ける必要があります。

個別周知・意向確認の方法は、面談や書面交付等により行う必要があります。

 

仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主の義務に

妊娠・出産の申出時子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主に義務付けられます。

意向聴取の方法は、面談や書面の交付等により行う必要があります。

意向の配慮を行う際は、例えば勤務時間帯・勤務地にかかる配置、業務量の調整、両立支援制度の利用期間等の見直し、 労働条件の見直し等について、自社の状況に応じて、労働者の意向に配慮する必要があります。

さらに、配慮に当たって、以下のような対応をすることも望ましいです。

子に障害がある場合等で希望するときは、短時間勤務制度や子の看護等休暇等の利用可能期間を延長すること

ひとり親家庭の場合で希望するときは、子の看護等休暇等の付与日数に配慮すること 等

 

個別の意向聴取には厚生労働省が育児復帰支援プランの策定マニュアルを用意しているのでそれを参考にしてもいいでしょう。

育児をする人にとって、労働を続けるには多くの課題があり、企業はその負担を迫られています。

しかし、この課題をクリアした企業には人材確保の面で多くの恩恵があるでしょう。

今のうちから育児介護休業法の改正に向き合い、対応していくことが大事です。

2024年10月15日

賃金のデジタル払いの導入

通常、労働者に賃金を支払うときは直接の現金払いか銀行口座への振込で行っていると思います。

しかし、新たな方法として2023年4月から賃金のデジタル払いが可能となりました。

キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するニーズがあるためです。

 

賃金のデジタル払いの概要

使用者が、労働者の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)ができるようになります。

資金移動業者とは、具体的には○○Payとなります。

現在、指定されている会社はPayPay株式会社1社だけのようです。

指定待ちの業者が数社あります。

労働者が同意した場合のみ、賃金の一部をPayPayで支払う形となります。

 

導入する場合の流れ

①事業所で労使協定

過半数で組織する労働組合の代表者か、それがない場合は労働者の代表との労使協定を結びます。

労使協定の記載例もありますが、

・対象となる労働者の範囲

・対象となる賃金の範囲とその金額

・取扱指定資金移動業者の範囲

・実施開始時期

の記載が必要となります。

 

②就業規則や給与規程への記載

就業規則や給与規程にデジタル払いができる旨の記載が必要となります。

 

③各労働者への個別の同意

各労働者への個別の同意が必要です。

デジタル払いの利用を労働者に強要はできません。

個別の同意書に記名してもらうのがいいでしょう。

 

④賃金支払いの事務処理の開始

業者ごとにデジタル払いの利用方法が異なるため、利用の際に確認してください。

 

 

2024年10月08日
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