「ビジネスと人権」と人権DD
BHR推進社労士(ビジネスと人権推進社労士)となりましたので記載します。
「ビジネスと人権」の世界の流れ
「ビジネスと人権」は、企業活動のグローバル化が進む中、企業活動における人権の尊重が注目されてくるようになりました。
国際社会では、1999年、当時の国連事務総長であったコフィー・アナンが「国連グローバル・コンパクト」を提唱しました。
グローバル・コンパクトは、企業に対し、「人権」、「労働」、「環境」、「腐敗防止」に関する10原則を実践するよう要請しています。
国際社会の様々な動向を受け、2011年には、国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が作られ、企業が人権を尊重する責任があることを明記されています。
2022年には日本政府も「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のガイドライン」を策定し、企業の人権尊重に対する高い期待を示しています。
また、「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成と人権の保護・促進は表裏一体の関係にあるとされており、企業がSDGsに取り組む上でも、人権の尊重は重要になってきます。
一部の欧米諸国では、各企業に対し、人権配慮を求める法律を導入する動きもあります。
例)イギリス(2015年)現代奴隷法・・・イギリスで事業活動を行う企業のうち、年間の売上高が3600万ポンド以上の企業は、毎年「奴隷と人身取引声明」を開示する義務。
フランス(2017年)ビジランス法・・・フランスに5000人以上の従業員、または合計で10000人以上の子会社社員を雇用する企業に人権デューデリジェンスを計画し、実行する義務。
今後この流れは加速していくものと予想されます。
また、投資家、市民社会、消費者において企業に人権尊重を求める意識が高まってきており、企業は、人権を尊重した行動をとることが求められています。
「ビジネスと人権」の実施
「ビジネスと人権」の実施は以下の流れとなります。
①人権方針の策定・公表
企業は人権尊重責任を果たすというコミットメント(約束)を以下の5つの要件を満たす人権方針を通じて企業の内外に向けて表明します。
・企業のトップを含む経営陣で承認されていること
・企業内外の専門的な情報、知見を参照したうえで作成されていること
・従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者に対する人権尊重への企業の期待が明記されていること
・一般に公開されており、全ての従業員、取引先及び他の関係者43にむけて社内外にわたり周知されていること
・企業全体に人権方針を定着させるために必要な事業方針及び手続44に、人権方針が反映されていること
②人権デューデリジェンス(人権DD)の実施
企業は、人権への影響を特定し、予防し、軽減し、そしてどのように対処するかについて説明するために、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方法に関する情報発信を実施することを求められています。
企業が関与している、又は、関与し得る人権への影響を特定し、分析・評価することです。
この一連の流れのことを「人権デュー・ディリジェンス」と呼んでいます。
特定・評価に当たっては、人事担当、調達担当、労働者代表、関与企業、周辺住民等のステークホルダーへの聞き取りが有効です。
評価後は結果を公表することが重要です。
現状を公表し、人権への配慮をしてる姿勢を世界に知ってもらうことが大事なのです。
問題をなくしてから公表となると膨大な時間がかかります。
世界から見ると、その間人権への対応をしていないようにとらえられてしまうため、できたところまでを自社HPなどで公表しましょう。
③救済メカニズムの構築
人権への悪影響を引き起こしたり、又は助長を確認した場合、企業は正当な手続を通じた救済を提供する、又はそれに協力することを求められています。
苦情処理システムの構築するなど、問題への迅速な対応、直接救済を可能とする方策を実施します。
図 外務省「ビジネスと人権とは?」
まずは実施、継続すること
まずは人権方針の策定・公表し、人権DDを実施することが大事です。
この人権DDは継続する必要があります。
人権DDの実施時には将来の人権問題まで把握できないためです。
時間や労力がかかるものですが、真摯に行うと企業価値の増進につながります。
大企業でさえ十分にできていない今のうちから始めて、人権のリーディングカンパニーとなりましょう。